今からちょうど50年前の「1975年(昭和50年)」・・・オイルショックの影響から有名企業の倒産が相次いだ年であり、世界的な動きではベトナム戦争が終結した年でもあります。
昭和の激動の時代、株式会社パールマネキン(パールイデアの旧社名)は創業から20年を迎えるにあたり、マネキンメーカーとしての軸となる路線をどうしようかと模索する日々でした。そんな中、とあるマネキンが産声を上げます。その名は「LILY(リリー)」。
今回は、昭和生まれの美しきマネキン「LILY」の ものがたり です。
岐阜の問屋町が生んだ、美しきユリの花。
岐阜と言えばアパレルの街。岐阜県の周りには毛織物・綿織物などの産地が多く、現在では屈指の繁華街であるJR岐阜駅の北側エリアも、最盛期には1800超の繊維関連企業が所狭しと軒を連ねる一大繊維問屋町が形成され、活気に満ち溢れ、大変賑っていました。昭和50年代は、オイルショックや円高の影響により経済成長は低いものの、物が増えた事で人々の生活は豊かになり、自身に合う質の良い商品を求めるようになった時代。問屋町では、製品を早く作るための工夫をしたり、特徴のある商品作りに努めた結果、不景気に影響をあまり受ける事なく成長を続けました。
「店内は狭いんだけど、1体でも多くマネキンを設置して、洋服を見せたいんですよね。」
当時、問屋町のお客様からいただいた一言です。
少しでも多くのコーディネートを美しく展示したいのに、問屋町の多くの店舗はスペースが狭く、普通のマネキンであれば2~3体設置すればキャパオーバーになってしまいます。しかしハンガーに掛けるだけでは折角の服の立体感や、着装感がわかりにくい・・・この悩みを何とか解決できないか?造形師でもあるパールマネキン創業者・後藤文男は粘土を手にし、マネキンとハンガーの利点を合わせ持つ造形を試みます。そして一夜にして完成したのが、薄型ウィメンズマネキン「LILY(リリー)」です。
通常のマネキンの2分の1という薄さでありながら、当時では珍しく欧米サイズに合わせた185cmの大柄なデザインは、大胆かつ繊細に洋服を着こなし、まるでユリの花のようなエレガントさ。時代のニーズを捉えた「LILY」は瞬く間に問屋町で噂となり、生産が追いつかないほど次から次へとご注文をいただき、パールマネキンの昭和最大のヒット商品となったのです。
昭和から令和へ、紡ぐ ものがたり。
そして時代は昭和から平成、令和へと移り変わり、マネキンの素材もファイバー製からGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)へと変化しました。しかし万能で不動とも思えたGFRPでさえ、現在では環境問題の観点により転換期を迎えようとしています。
LILYのデビューから50年を経た今年2025年、昭和のヒットマネキンと語り継がれているLILYのコンセプトをそのままに、現代のアレンジを加えたマネキンをつくりたい・・・という想いから「復刻LILYプロジェクト」がスタートしました。
まずは現存する昭和のLILYマネキンを徹底分析し、粘土造形に着手。錨(いかり)型をなで肩に変更し、極力薄さはキープしたまま、現代の洋服にマッチするようにバスト&ヒップを強調させます。一番のこだわりは、曲線で構成されていた顔の輪郭にシャープなラインを加えることで、アート性と独自性をプラスした点です。
粘土造形をベースに、石膏で雌型(めがた)を作ります。マネキンは通常、この雌型を使う事で量産が可能になるのです。
出来上がった雌型に、FRP樹脂を張り込みます。
樹脂が完成したら雌型から外し、磨き作業を行います。いずれの作業も、熟練されたマネキン職人が細部までこだわり製作しています。
ここまでが通常のマネキン製作の工程。ここから新たな技術を用いた作業です。完成したマネキンを全身スキャニングし、想定される構成・ポージングをデータ化します。
今回初の試みで、FDM方式(Fused Deposition Modeling/熱溶解積層方式)の3Dプリンターで、フィラメントを使ったデータ出力を採用しました(※)。リールに巻き付けられた細長い糸状の樹脂素材=フィラメントを溶かし、層状に積み重ねることで造形をします。これにより、生分解性バイオマスプラスチックポリ乳酸(PLA)やトウモロコシ・ジャガイモ由来の原料、再生PETなど、環境配慮素材での出力が可能になったのです。今回は再生PETで製作しました。
(※)パールイデアでは用途・商品により、FDM方式と光造形3Dプリンターを使い分けています。
組み立て、検品・チェックを経て、昭和のレガシーを引き継いだ令和版「LILY」の完成です。
時代を超えた ものがたり は続く
時代を超えた「LILY」は、50年を経た今、最新技術を駆使して進化しました。3Dプリンターでの製作や、再生素材を使うことで環境にも配慮した新たな形が誕生します。昭和から令和へ、空間デザインの革新を続ける「LILY」のものがたりは、今なお続いています。
新たな進化を遂げた「LILY」のリリース時期に関しては、現在最終調整を行っております。お客様への詳細なご案内は、もう少しお待ちいただければと思います。誕生から50年、時代を超えて愛され続けたこのマネキンは、最新技術と環境配慮を兼ね備え、さらに美しく、さらに機能的に生まれ変わりました。リリース時期の発表まで、ぜひ楽しみにお待ちください。これまで以上に、空間デザインに革新をもたらす「LILY」の登場を、私たちも心待ちにしています。
マネキンプロデューサー。マネキン開発に携わりながら、営業としてもマネキンのご提案を担当。2023年骨格診断師ライセンス取得。お洋服にぴったりのマネキンをご紹介します。